カテゴリー別アーカイブ: 修復事例

「托鉢僧大行列図」其の四(折れ伏せ)

今回は作品が擦り切れている部分、虫食いなどで穴が空いている部分の補彩、欠損部分の補修などがテーマです。

まず、折れているところには通常の白い和紙で補強します。そして、黄土色の紙で補強している部分がありますがこれは、擦り切れて本紙部分が残っていない場合、時代色がすでに付いているのに、裏打ち紙の白い和紙が目立ってしまうため作品の地色と近い色合いが出るように染め紙を使用します。今回の補彩に相当するところでも有ります。この部分を面相筆などで補彩することも有りますが、この方法が妥当であると考えました。

理由としましては、現在の修復保存の考え方は欠落した部分をわからなくすることより以上に、第一に、「作品の表現を現状維持する」ことと、次回の修理作業を作品にダメージを与えずスムーズにできるようにという考え方からです。作品を鑑賞するときにじゃまにならないように。決してわからなくすることが目的ではないからです。

以前の考え方は、作品を「生きているもの」として捉えていたので、キズ等は元通りにするということから、修理部分をわからなくすることが目的でした。

この辺については、http://yoshihara999.com/?p=643ご参照ください。

 

IMG_041   IMG_042 修理者以外見ることの出来ない作品の裏側です。

作品の裏側にも多くの想いが込められているのです。

 

 

 

「托鉢僧大行列図」其の三(劣化絹)

 

 

今回は人間でいうところのレントゲンのようなものです。

肌裏打ちを剥がし終えたら、また詳しく調査します。

下方から光を当て、作品の状態を詳しく調査します。

以前の修理で欠損部分を穴埋めされたと思われる繕いの紙、すでに擦り切れてしまった部分。

そのまま残っているシワなど、様々な情報が光を当てることで詳しく確認できます。 IMG_031 IMG_032 これらを詳しく調査した後、「折れ伏せ」「補修紙」などを入れていきます。

補修紙で穴を埋めた後、画面を安定させるために肌裏を打ちます。余談になりますが、肌裏の紙を貼ることを「打つ」と言います。金箔などは「箔押し」と呼ばれています。

また、本紙の条件(紙ではなく絹本など)によっては、表打ちをした後、肌裏を打ち、画面を安定させてから、「補絹」という作業をします。国宝修理をされている工房などでは、古くなった絹糸と強度を合わせるために、「劣化絹」という物を使用します。残念ながらこの劣化絹は一般の表具屋にはてにはいらないようです。

次回は、肌裏の後の「折れ伏せ」に入ります。古い掛け軸を作る上で一番重要な部分なります。

修復事例 (托鉢僧大行列図)其の二(ポリエステル紙)

 

今回は、肌裏打ちの剥がしです。

調査の段階で、すでに肌裏が剥離している状態を何カ所か確認できたので最後まで剥がすことにしました。

場合によっては状態を観て、肌裏を残し、剥離している箇所は糊を入れて以前からの肌裏紙を活かす選択もあるのですが、調べてみると肌裏に使われていた紙は、ハトロン紙のようなもので色も本紙よりも濃く、紙の性質から言っても肌裏には適さないと判断しました。

そこで今回は、ジアスターゼを使用しました。

 

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本紙がかなり損傷していましたので、ポリエステル紙で表打ちを施し、補強しました。

これで、ある程度は本紙の補強になります。

これをするとしないでは、作業の安心感がかなり違います。

表からだけでなく、裏からもポリエステル紙で覆うことで水分の蒸発なども防げます。

また、剥がす際に裏打ち紙に一緒に沿わせることで作業の安全も図れます。
IMG_022 数時間経てばジアスターゼの効力はなくなりますが、残留物がないように下方へ数枚の吸いとりし紙を敷き、残留物を吸いとりし紙に落とします。

この後状態を確認した後、肌裏打ちに入ります。

 

修復事例 (托鉢僧大行列図)其の一

今回は、解体の様子を詳しくご紹介いたします。

まずは、画面の状態調査から・・


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おそらく、今まで1〜2回は仕立て直している後が確認できます。

穴の繕いや、折れ伏せの後、すでに摺れてしまい、切れてしまそうなところなど。

最初に気になったのは、あまりにも細かいシワが多すぎる点です。

画面全体にシワが出ているので、技術的に未熟な人がされたのか、

あるいは何か事情があったのか?

いずれにしましても、このままではまた折れて、最後には切断してしまうので、

折れ伏せ、絵に影響がないところはシワを伸ばすなどの処理が必要になります。

本紙自体がかなり傷んでいるようなので、

場合によっては、表から保護の意味で「表打ち」などの下処理が必要になります。

次回は、解体し、肌裏打ちを剥がしているところをご紹介いたします。

 

 

 

 

 

人材養成にはたす博物館の役割 其の六

文化財を活用する博物館のもう一つの役割は、文化財の修理です。今から30年前の昭和55年(19980)に、京都国立博物館二修理施設が設置され、奈良国立博物館には平成20年(2008)に、九博でも開館と同時に設置されました。東京国立博物館でもそれ相応の施設が宋座しています。

文化財の修理施設画が設置されている背景には、修理する人たちが安心、安全に修理出来る場所、あるいは文化財にとっても安心、安全を保ちながらしっかり修理される場所は、博物館であるということであります。現在、これらの修理施設に伝統的な修理技法や手法を持つ工房が入って活動されています。

そこで、安全性が確保され、また、各工房同士が集うことで切磋琢磨しています。もちろん、その中で素材や材料の共同開発も行われています。難しい修理になると共同研究も行います。そして、今、修理に係るそれぞれの団体では研修を行い、資格制度にも関心を向けながら新鮮な修理世界の展開に挑んでいるわけです。

そして、九博では、そうした修理の生々しい実態を、市民の地域が理解し、文化財修理の大切さとその意義の理解画広がっていく事を嫌いしています。また、市民が修理を知り、修理に大きな関心を寄せることによって、次の新しい担い手がドンドン生まれてくる可能性に期待して、修理施設を運営しています。具体的には、九博では国宝修理装潢師連盟の九州支部の方々が修理しています。この修理の世界は、かつて閉ざされた秘密の世界でした。そのタブーカラの脱却として、廊下に窓を設け、外から子供立ちを始め市民も見ることができるようにしました。(下図)

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この効果の意義を私どもは大事にして行きたいと思っています。

また、教育普及の一環でもありますが、子供立ちに保存に関心を持ってもらうために「なりきり学芸員」と読んでいますが、保存修幅を体験できるような機会も設けています。そいて、修理だけでなく、修理した結果もこれからはしっかり公開していくことで、修理、保存のあり方を一般の人々に広くご理解頂くようにしていきます。このことはすでに東京国立博物館も積極的にやられています。こうした積み重ねが、文化財の保存に向けた人材養成への道を大きく拓くことだと信じています。

学会の活動にはあまり触れられていませんでしたが、学会ではポスターセッションなどの機会を通じて文化財の保存に関心のある市民たちに積極的に公開しています。実際に学会のポスターセッションを見に来る関心を持った市民が大勢います。それから、学会活動として難しい、高度な話ではなくて、市民に向けて情報を発信していく努力を通じて、私ども文化財保存修復学会と姉妹関係にある日本文化財科学会も文化財の守り手を育てることに学会全体としても挑んでいるという事を是非ご理解いただきたいと思います。

参考文献 文化財の保存と修復より

絵の具とラーメンとうなぎ

ラーメンのスープは「呼び戻しスープ」などの技法が有り、毎日継ぎ足し継ぎ足しで店の味を守っていく。
うなぎも秘伝のタレを守り続ける。

さて、洋画、日本画についてはいかがでしょうか?
伝統の「秘伝の色」は存在するのでしょうか?

ラーメンのスープ、秘伝のタレなどは、毎日「火入れ」と言って殺菌、カビなどが生えないように、毎日欠かさず熱を入れます。店によっては、衛生面を考えて毎日鍋を換えるところもあるようです。
我々の世界では、新糊になる生麩を入れてある瓶に張ってある水を毎日入れ替えます。
この時に、かき混ぜたほうが良いという方と、混ぜずにそのままのほうが良いという方と意見が別れるところでもあります。
いずれにしましても、その土地の環境や風土によって最良の方法を目指して工夫した結果です。
ここで「色」に話を戻します。
小学生の頃、水彩絵の具で写生をしました。その時、パレットに絵の具を出すわけですが、
その時に使う色だけをパレット出す人、その絵に使いそうな色を全部パレットにだしてから絵を書き始める人。
様々な書き方があります。もちろんどの方法が正しいとか悪いとかといっているわけではありません。肌色の絵の具もありますが、あえて白と茶色を混ぜて肌色を出す人など、人それぞれ様々な
書き方をしていました。また、先生によっても、指導方法に違いが見られました。
そして写生の時間が終わり筆を丁寧に水洗をします。
問題はその後です。
パレットを毎回洗う人、洗わない人にわかれます。もちろんめんどくさくて洗わない人もいるでしょうが、学年でずば抜けて上手い人が一人二人いて、その子たちは私の知る限り洗ったことはないようでした。
もちろん当時は何も考えず見ていたのですが、今になって記憶を辿りますと確かに思い出せます。
朝日を浴びた花びらの色、夕立後の花びらの色、早朝の空の青色、真昼の空の青色などすべて違います。
きっとその人にしか出せない色が存在すると思います。

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ四

後継者・材料・道具の問題

後継者につきましては、以前より多くの若伊方に事業所の門戸を叩いていただけるようになりました。特に二十数年前までは、ゼロであった女性の技術者が半数以上の応募が有り、装潢技術者の半数以上を占めるようになりました。平均年齢も30歳代前半という大変若い団体であるという事が、連盟の誇りです。後継者育成という点で、先に消化した定期研修会の他に、連盟の予算で個人研修を募るなど、全体としてのレベルアップを図っています。

また、海外にも目を向け、東洋文化財の保存修理を視野に入れて国際交流にも努めています。

最も深刻な問題は、材料と道具の確保です。文化財の修理には大量の材料、道具が不可欠です。

和紙や織物、金工、指物など日本人の生活様式の変化に伴って全体的な需要が減少するに連れ、伝統的な製品を作る工房の閉鎖が後を立ちません。例えば、軸物の裏打ちに欠かせない美須という絵和紙は接着剤が古糊から科学的な糊へと変化したことに寄って需要が激減し、現在、美須紙を制作しているのは日本でただ1工房のみです。それも60代のご夫婦が制作されており、現在のところ後継者はいないと伺っております。紙以外のものでは、染織品の中に伝統的な技術を守って私達が希望するような表装裂地を織ってくれる工房も、ほんの1,2工房と少なくなっています。

すべての工程出機械化が進んだため、手作業に必要な道具が書く分野から消えていっています。

装潢修理に使用する数種類の刷毛も数工房でしか制作していないのが現状です。このような工房をどのように支援していく事ができるのかが、大きな課題の一つです。具体的には文化庁に相談して選定保存技術の指定をお願いしたり、指定が得られた後には、この工房の製品を文化財の修理に必ず使用して各生産者を支えていくという努力を続けています。これをあらに続けて行かなければならないと考えています。

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参考文献 〜文化財の保存と修復より〜

※ 2012年現在では、あらゆる面で再び減少傾向に有り、厳しい対応に迫られることもあるようです。

 

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ三

平成17年4月1日にかねてからの念願柄ありました法人化、有限責任中間法人が成立しました。

これは、連盟ないだけでなく広く公的に装潢技術の理念を示すものです。

その一方で、社会的な責任を果たす意味も込めて、修理技術者の資格制度をスタートさせました。上位資格者である技術長、主任技師になるためには、外部委員会による試験をクリアしなくてはなりません。外部委員会は文化財修理にかかわる書く分野の専門家から後世され、技術者には筆記試験、実技、口頭試問などが課せられます。5年目を迎えた現在(2009)技師長が8名、主任技師が25名が資格者として登録されています。

このような制度や事業により、現場の体制も旧来の書く工房におけるいわゆる徒弟制度的な上下関係から、工房内の枠を超えたももに拡大しつつあります。連盟では九州国立博物館に九州支部、京都国立博物館内に関西支部の工房を設けて、加盟工房から派遣された技術者が共同事業に携わっています。

参考文献 文化財の保存と修復より

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ二

主な共同作業としては次のようなものがあります。

まず、昭和30年代に、修理にかかわる保存科学について記述されたプレンダリースの著書(下図)を翻訳し、勉強会を持ちました。この事業は、連盟を立ち上げた先輩たちが、日本の修理の中に自然科学の視点を持ちこむことを必要と感じたことがきっかけでした。このような流れのなか、昭和46年度より、絹絵欠失部分に補填するための材料として、人工的に劣化させたミヌを共同開発しました。それは現在、世界中の東洋の絹絵を修理するために紫陽にも対応出来る様になっています。昭和46年から26年掛けて行われた色定経4300巻の首里に始まり、上杉文書や三千院文書等の修理に共同で取り組んで来ました。現在も10ヵ年計画で、10,000紙に及ぶ国宝・東大寺文書の修理が進行中です。

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このような当連盟の活動に対して、平成7年に文化庁から選定保存技術団体として認定を受けました。以来、補助金を受けて伝承者の育成、技術技能の錬磨、記録作製及びほんの発行という、3本柱を中心に事業を進めてい来ております。連盟の登録具術者を始め装潢技術にかか割る人々を対象に、定期研修も毎年行なっており、今年(2008)もこの会場で11月に行いました。

参考文献  文化財の保存と修復より

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其の一

今週は、国宝修理装潢師連盟についてもう少し詳しくお伝えしようと思います。

以下、装潢修理をめぐる現状と課題より抜粋〜

装潢修理の仕事

装潢という言葉は、正倉院文書などなら時代の文献にすでに現れており、その頃から巻子や屏風を仕立てる仕事がはじめっています。「装潢」を辞書でひきますと、「表装と同義語」とあります。尾の表装技術を使って文化財の修理の対症となるものは、紙や絹、土や板などに顔料を膠(にかわ)で接着させた絵画と、墨蹟(ぼくせき)や転籍(てんせき)、古文書など紙に墨で書かれた書跡です。それら、絵や書が描かれた本紙の修理に加え、本紙を形作る軸物、屏風、襖、巻子、冊子などさまざまな形式に仕立てることも、私達の仕事です。

国宝修理装潢師連盟は、平成21年(2009)に50周年を迎えます。昭和34年に、当時、国の指定文化財を修理していた7工房が結集して設立されました。現在では10工房が加盟しており、約130名の登録技術者がおります。

連盟内でお互いに連絡をとり、共同作業や共同での技術開発を行なっています。

次回は共同作業についてお伝えします。

参考文献 文化財の保存と修復より