修復事例」カテゴリーアーカイブ

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ二

主な共同作業としては次のようなものがあります。

まず、昭和30年代に、修理にかかわる保存科学について記述されたプレンダリースの著書(下図)を翻訳し、勉強会を持ちました。この事業は、連盟を立ち上げた先輩たちが、日本の修理の中に自然科学の視点を持ちこむことを必要と感じたことがきっかけでした。このような流れのなか、昭和46年度より、絹絵欠失部分に補填するための材料として、人工的に劣化させたミヌを共同開発しました。それは現在、世界中の東洋の絹絵を修理するために紫陽にも対応出来る様になっています。昭和46年から26年掛けて行われた色定経4300巻の首里に始まり、上杉文書や三千院文書等の修理に共同で取り組んで来ました。現在も10ヵ年計画で、10,000紙に及ぶ国宝・東大寺文書の修理が進行中です。

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このような当連盟の活動に対して、平成7年に文化庁から選定保存技術団体として認定を受けました。以来、補助金を受けて伝承者の育成、技術技能の錬磨、記録作製及びほんの発行という、3本柱を中心に事業を進めてい来ております。連盟の登録具術者を始め装潢技術にかか割る人々を対象に、定期研修も毎年行なっており、今年(2008)もこの会場で11月に行いました。

参考文献  文化財の保存と修復より

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其の一

今週は、国宝修理装潢師連盟についてもう少し詳しくお伝えしようと思います。

以下、装潢修理をめぐる現状と課題より抜粋〜

装潢修理の仕事

装潢という言葉は、正倉院文書などなら時代の文献にすでに現れており、その頃から巻子や屏風を仕立てる仕事がはじめっています。「装潢」を辞書でひきますと、「表装と同義語」とあります。尾の表装技術を使って文化財の修理の対症となるものは、紙や絹、土や板などに顔料を膠(にかわ)で接着させた絵画と、墨蹟(ぼくせき)や転籍(てんせき)、古文書など紙に墨で書かれた書跡です。それら、絵や書が描かれた本紙の修理に加え、本紙を形作る軸物、屏風、襖、巻子、冊子などさまざまな形式に仕立てることも、私達の仕事です。

国宝修理装潢師連盟は、平成21年(2009)に50周年を迎えます。昭和34年に、当時、国の指定文化財を修理していた7工房が結集して設立されました。現在では10工房が加盟しており、約130名の登録技術者がおります。

連盟内でお互いに連絡をとり、共同作業や共同での技術開発を行なっています。

次回は共同作業についてお伝えします。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

時代色と染み抜き

現在進行中の掛け軸の作業工程をご紹介いたします。

今回は、過酸化水素という薬品を使用しました。

お客様との打ち合わせで、一番下方にある直径2㌢くらいの染みをどうするか?

ここ以外には大きく気に掛かるような染みは特になく、この強い染みが落ちなければ

最悪、この部分を切り落とすという判断もありうる。という事になりました。

お客様にとってかなりこの染みが気になってしまうのだと感じました。

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前         後

画像の撮り方が未熟でわかりにくいですが、強い染みがほとんどわからなくなりました。

ここで重要なことは、染みが抜ける最小限の薬品を使うということに注意して

行いました。なぜなら、染みは抜きたいが、長年の間に自然についた「時代色」

は残すべきだと考えたからです。薬品が強すぎれば、作品(紙本)にもダメージがあります。

ひとつ間違えれば、作品の寿命を縮めかねなからです。

もう1回洗いをしたいところですが、一歩手前で終了と致します。

 

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修復家という職業としての確立

従来の日本の博物館の在り方からして、文化財の保存を学芸員は途中でいろいろなかたちに姿を変えながらここまで来ましたが、それにともなって、研究員が担うべき職務内容も変化しています。戦後直ぐの博物館では、学芸員の保存修復の事を考える事を業務として行うと、明確に書かれていました。それで最近、保存修復の専門家が入ってきたわけです。その一番大きな理由は、公開がこれまで以上に促進される時代になったことでしょう。文化財を公開することと同時に文化財に附属する様々な情報もきちんと整理して、正確に外へ発信しなければならない時代になりました。正確を期し、安全性をより高めるという意味からも。独立し、専門化した保存の担当者が必要になります。

残念ながら、これまでの日本の社会の菜か出罪挙げられなかったため、博物館に保存修復という職業がなく、博物館における一般的な職業として成立してはおりません。お巡りさんといえば何をする人かわかりますし、看護師さんといえば何をする職業なのかわかります。しかし、今、一般の市民に博物館の保存修復とは何をする職業なのかという事はまだ十分に理解されているとは思われません。早く職務の一つとして確立していかねければなりません。職種ができてもふさわしい人がいなければ仕方がないので、人材の養成も不可欠のことです。どちらが先かわかりませんが、今はどちらにも課題があるという状況です。

参考文献  文化財の保存と修復より

 

展示するには修理が必要

「探検バクモン」という番組で、7月20日に再放送が決まりました。

 

探検記録アンコール 秘宝ザクザク!東京国立博物館(放送:2013年7月3日/再放送予定:2013年7月20日)

http://www.nhk.or.jp/bakumon/prevtime/20130703.html

今回はこの時に爆笑問題のお二人を案内をされている神庭修復課長のパネルディスカッションの一コマをご紹介いたします。私が、3.11の岩手レスキューに参加した時に幾度かお会いさせて頂きました。当時は、そんなに偉い人とは知らなかったので、今になってから変な汗が出てきます。

東博の所蔵品の点数は、公式的には11満点と言われております。ただし、1件に2点、3点、あるいは100点というように、件数を細かく個別に見ていくと数百万点が収蔵されています。それを言い出すときりがないので件数でお話しますが、東博では常時、皆様の目に触れやすい作品は5000件です。つまり、年間5000件ほどが常設展示されています。その他、数線点を館外へ貸出ていますので、大雑把に言って約1万件が頻度高く利用されている収蔵品です。この1万件に痛みが多いわけです。例えば、巻物ならば折れが発生して修理しなければならない時期が来ます。それを見て行くと、正確な数字はお答え出来ませんが、1万件の中に相当数が本格的な修理を必要としています。しかし、それらを一挙に修理することは不可能です。全部修理するには数百年かかると思います。

そこで優先順位をたてるようにしています。具体的菜痛み具合をきちんと把握するため、先ほどご紹介したようなカルテを作製しながら進めています。それでも年間、数百点の調査しか出来ません。1満点全体が把握出来れば、難点出何年掛かります。と直ぐいえますが、今は、数千点が修理を待っているとしか言えません。実際は、それ以上かもしれません。

これまで1年間に100件の本格修理を積み重ねてきています。経費をこのまま維持出来れば、1万件ならば100年、2万件であれば200年掛かります。そのようなオーダーで考えていかければならない問題です。

人気があって、良く展示されたり、他館に貸し出されるものはある意味規則正しく痛みます。1年に1回の展示を100回行うと、100年たてば紙ものなら折れが目に見えるようになります。そのように痛みが進行して修理していくという感じです。すべて修理するのに100年掛かるとすると、1周したら最初のものが傷んで来ているという無限のサイクルのかなで手当していくことになります。博物館だけでなく、文化財を管理するあらゆる立場の人たちは、そのような状況にいると考えて頂いて良いわけです。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

臨床保存へのアクセス

ここまで、修理保存ん実際をご紹介して来ましたが、次は、東博の「臨床保存」活動そのものにアクセスしていただくための取り組みをご紹介します。臨床保存に関する常設展示は、本館と平成館を結ぶ廊下スペース出紹介しています。処置前のいたんだ様子の収蔵品なども展示、公開しています。また、年に1回、約6週間になりますが、前年度などに本格修理を終えた作品をご紹介する展示を企画しています。この期間中は、保存修理課の職員によるギャラリートークが毎週有り、また、外部の専門家をご招待した座談会なども予定され、少しでも皆さんの知的アスセスが容易であるように工夫を凝らしています。

次は、臨床保存の現場へのツアー企画です。一般の皆さん、小学生も含めた学生を対症に、今お話しました6週間の修理展示期間中などに行います。更に、今年は2週間、大学院正のインターンの受け入れに行いました。保存修理に関する理論的な講義、職員の行う保存環境の調整作業、収蔵品の保存状態の調査・記録作業などに立ち会い、博物館における臨床保存の作業実際を体験して頂きました。将来的に文化財の保存と修理に関わっていきたいと考えていらっしゃる学生さんの一人でも多くの方に、このようなプログラムを充実してきたいと思います。

更に、修理保存の記録を紹介します。何らかの処置などを施した各作品には、処置内容を記録したカルテや修理報告書を作成します。修理報告書は平成11年より毎年発酵しています。これまで本格修理のみを掲載して来ましたが、平成19年度刊行号からは、東博で行った対症修理のリストも掲載することになりました。

これからは、皆様の文化財への知的アスセスを促すことになると同時に、次回修理への重要な情報源となるでしょう。

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参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

東京博物館の取り組み 対症修理例 その3

下図は、「博物館魚譜」と呼ばれる、様々な魚の絵が折れ本装のアルバムに、スクラップ上に張り込まれた資料です。全部で16冊あります。折れ本の両面に、絵が折りこまれていて、開閉の際に、折れやシワが生じやすく、取扱が大変困難な資料です。

この資料は、草創期に編集された、まさに博物館最初のコレクションの一つとして大変記帳なものです。資料性を尊重するためには、このままの状態で出来るだけ長く保存、活用すべきであると考えます。したがって、最小限の介入でぶら下がる紙を固定するために、和紙のポケットのよな保護カバーをつけることにしました。いつでも、元の状態に戻す事ができるので、今後、より良い方法が開発されれば、文化財に負担を与えることなく、再度処理を行う事が可能です。もちろん、それまでの間の取扱も安全になるでしょう。

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参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

東京博物館の取り組み 対症修理 その2

将来的な損傷を予測し、先回りをしてその損傷を予防するという対症修理の例です。

この処置の中には、文化財に対する直接的な処置だけでなく、保存箱を作製するという作業も含まれています。下図はまさに環境保存の中に分類できるとおもわれる、保存箱や保存用補助具制作の一例です。保存箱は埃や汚れなどから、文化財を保護します。中性紙の筒状の芯は、紙の変形を防ぐためのもので、作品を緩やかに巻き込むために使用します。いずれも、文化財に直接接着剤を用いて穂居するという処置出ないことが利点で、確実に文化財の寿命を延ばし、本格的な修理を先送りにする役割があります。また、腰ほどお話した軸棒の中に埋められた鉛の問題では、あのような些細に思える処置こそが、将来的に予想される危険な損傷を予防することにつながるのです。

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参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

 

 

東京博物館の取り組み 対症修理例  その1

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まず、どのような修理保存に対しても共通ですが、対症修理をするに当たって、必ず守っている条件があります。

それは、、、

①必要にして最小限の処置に留めること

②可逆性のある安定した材料を用いること

③記録を残すこと

修復倫理として、世界で共通認識されている、「オリジナル性の尊重」を念頭においた条件です。

対症修理の例です。

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下図は、紐の新調

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img0013上図は、文化財の表面に付着した汚れの除去。

下図は、掛け軸の掛かりを良くするために軸棒に埋め込まれた鉛の除去と言った作業です。軸棒の鉛の酸化・膨張という問題は、軸装だけでなく、巻子においても同様に起こっています。酸化・膨張した鉛が裂や本紙二傷をつけた後だけでなく、機会があるたびに、軸棒の鉛の有無を確認し、カルテに記録していくようになりました。明らかに膨張の兆しが見られる物に関しては、太巻き芯に巻くなど、膨張が起こった後に鉛と本紙が接触しないようにな工夫などをいて、先手を打って処置を考えております。それは、次に説明する処置につながります。

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参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

東京博物館の取り組み 対症修理と本格修理

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上図は、当館の修理保存件数の推移です。

修理保存を実際に担当する専門家が配置されてから、本格修理に比べて対症修理の件数が飛躍的に伸びています。解体を含む大掛かりな修理は、文化財によっては、どうしても周期的に必要になりますが、現実問題としては、経費や時間や文化財自体への負担を考えると、できる限り先送りにしたい処置でもあります。しかしながら、劣化や痛みの著しい文化財に対して、ただただ見守っているだけでは失われるものが多く、活用のできないというジレンマがあります。そこで、やはり対症修理の必要性が年々高まって来ているというわけです。文化財へのアクセスを安全に行うための処置は、時に緊急を要することが多いのも事実です。ぼんやりとした遠い将来のことではなく、目の前の問題を確実に解決していくこと、これが文化財へのアクセスと直結しているのではないでしょうか。

参考文献 文化財の保存と修復より