人材養成にはたす博物館の役割 其の五

〜九州国立博物館館長基調講演より〜

収蔵庫の保存環境をしっかりと整えるために、私どもの博物館では博物館科学、つまり保存科学の分野をしっかりと構築して、それに携わる人たちを組織し、木の指せるように努めています。そのことが、守り手を育てる事にも繋がっていくと考えています。

日本の博物館刃、これまで保存科学、博物館科学おいう組織をほとんど持っていませんでした。繰り返すようですが、文化財は活用しなければなりません。しかし、活用にともなって生ずるリスクは非常に大きな物があります。そのリスクを減少させ、リスクを解消するように努力していくことを担当するのが、博物館科学です。今後、博物館刃この分野を一層昨日させることで、適切な保存の場としても位置づいて行くと、私は考えます。そして、近年、日本の各地の博物館や美術館でも新しく取り上げられるようになったのが、総合的病害害虫管理です。虫やカビのない環境を作っていく活動です。全く虫やカビのいない環境などはありえませんので、人の手によって虫やカビを助教指定校という活動です。日本の文化財の特色の一つは文化財を個性する材質が紙や木という有機質であることですが、その有機質文化財の70%以上は、虫やカビにより大小の被害を受けています。その為、虫やカビを百歩t館や文化財公開の施設からなるべく除去することが日常管理として重要です。毎日掃除をしていこうということです。この管理体制に入っている人たちも、しっかりとした守り手です。文化財の関係者はそのよな方たちをサポートして行く必要があります。

また、IPM活動の進化した形として、いわゆるNPO法人として各地出いろいろな活動をしていくという新しい展開も見られるようになっています。このNPO法人がこれからの博物館の保存の部分では守り手として求められる様になるでしょう。私どもを始めとするいくつかの博物館ではすでにそのような活動を行なっています。

参考文献 文化財保存と修復より

人材養成にはたす博物館の役割 其の四

〜九州国立博物館館長基調講演より〜

博物館ですので、保存するための施設として収蔵庫を持っています。しかし、これからは文化財を忠たんに収蔵するだけでなく、安心・安全に保存していく事のできるよい環境を整えていくことが、博物館のもう一つの大きな責務となってい来ます。

博物館は、私の実体験から申しますと、展覧会などの公開に3割のちからをさき、保存についても同じように3割り程度のちからを割いて来ました。多くの市民の方には展覧会だけが目につきますので、展覧会に9割ほどのちからをかけているとお考えかも知れませんが、そうではありません。その他、調査・研究や管理の部分にも3割ほどのちからをしています。そのようなバランスんなかに博物館は存在しているのです。

そして、保存ための施設という事で細かく見ていくと、いろいろな問題点があります。例えば、虫がいない、カビが発生しない、文化財に取って居心地の良い施設を作り、それを保っていくことが博物館の大きな役割です。問題は、そのような事をする人たちをどう育てていくかです。この部分に、行政はこれまでほとんど目を向けてきませんでした。守る人たちを作り、育てることが日本では遅れています。活用するための人を育てたり、展覧会をやる人、いわゆる学芸員を育てることに遭遇してきたきらいがあります。そのことも重要ですが、これからはバランスよく、守る人立ちを育てていくことも重要なテーマとなっています。

ここで、収蔵庫の様相を簡単にご紹介します。非常に些細な事かもしれませんが、収蔵庫の壁の板張りには、白太材を用いています。このようなことで文化財を守る環境を作っています。麻tあ、収蔵庫内の棚の作り方など、細やかな工夫がいろいろあります。それらは、総括的に保存という寒天で考えれて行かなければならないテーマです。

参考文献 文化財保存と修復より

 

人材養成にはたす博物館の役割 其の三

〜文化財の保存から保護へ〜

日本は早くから文化財の保存に関わって来ました。最初は、明治4年(1871)の「古器旧物保存方」で、ついで明治30年(1897)に「古社寺保存法」それらを改正して昭和4年(1929)に「国宝保存法」が制定されていましす。不動産関係の文化財で言えば、大正8年(1919)に制定された「史蹟名勝天然記念物保存法」があります。この流れをまとめて、新生日本の取り組みの中で生まれ変わったのが、昭和25年(1950)に制定された「文化財保護法」つまり現行の法律です。

ここで、多分気がついておられないと思いますが、昔の法律にはすべて「保存」とあり、現行の法律では「保護」となっています。保存から保護へ変化しています。実は、この保護という言葉の中には、保存という意味と活用という意味の両方があります。この事は制度の内容を見るとわかります。保存の部分でがっちりと制度を定める一方で、活用についても触れているわけです。これまでは活用の部分が比較的疎かにされて来ました。保存だけが主張されているというイメージがあります。近年、保存涛活用のバランスをとることに必要が言われているわけですが、保護というのはそういう意味です。「文化財保護法」のなかでも、保存は制度的にもしっかりと息づいてするはずですが、どういうわけか、これまで保存についてはあまり積極的な博物館のテーマにはなりませんでした。社会的なテーマでは有ったのですが、そこで私ども九博としては新しい考え方を提案し、実践すべきだと考えて、今日まで活動を続けています。

参考文献 文化財保存と修復より

人材養成にはたす博物館の役割 其の二

〜九州国立博物館館長基調講演より〜

ここで視点を変えて、博物館の役割を改めて検証してみます。現在の「文化財保護法」が制定された次の年の昭和26年(1951)に「博物館法」が制定されました。この博物館法で歌われている博物館の役割は、次のようになります。

第1は資料つまり文化財を公開・保護することです。この公開するということは活用することと同義語として考えて頂いて良いのですが、この公開が博物館の主な任務として強調されて来ました。第2は、調査・研究、第3は資料(文化財)の収集・保存です。収集方法としては購入、寄贈、寄托など様々なかたちがあります。

そして、これまでは、残念ながら保存の部分はあまり注目されて来ませんでした。保存が注目されてようになるのはやっと10年ほど前からです。

博物館の持っている役割、すなわち資料の公開・保存・調査・研究・収集のかなで、「文化財の守り手を育てる」というテーマには、この保存の部分が関連します。

ここで、公開、活用の状況を私どもの博物館を例にかんたんに説明します。いわゆる展示公開はいろいろなテーマで行なっていますし、常設展なども海外のモノを始め様々な文化財を展示しています。また、何に何回かの特別展も企画しています。東京博物館では、海外展の帰国展「国宝の土偶展」を開催していますし、中旬からは「はせがわ東伯展」が開催されます。特別展は年間をとおしてやるわけにはいきませんので、年に3回なり4回開催していますが、大変労力のいる仕事です。

参考文献 文化財の保存と修復より

人材養成にはたす博物館の役割 其の一

今週は、九州国立博物館館長の基調講演より抜粋して、ご紹介いたします。

博物館と学会が文化財の保存・修復にどのような役割を果たしているのか、どんな人材を養成しようとしているのかといった事をご紹介させて頂きます。

博物館は文化財を展示したり、活用したりあるいは文化財を収蔵。保管するするなどの様々な役割を持っていますが、博物館が文化財の保護に関して重要な役割を果たしていることを、あまり深く考えておられないと思います。博物館こそ活用の最前線であり、同時に保存の最前線であるという考え方や実態をご紹介したいと思います。

文化財の守り手はいろいろ考えられます。普通は、修理技術者出会ったり保存科学者、文化財の貯蔵者、近年ではいくつかのNPO法人が部分的にせよそれぞれのテーマで文化財の保存に重要な役割を果たしています。そして、一番強調したいことは、市民の存在です。市民のパワーにはいつもびっくりさせられます。九州国立博物館は(以下、九博と略す)背景に政治的、行政的な力がありましたが、本質は市民のパワーによって開設された経緯を持っています。そのようなことを勘案しますと、文化財を市民とともに保存、活用していくことが非常に重要です。これからは市民の力をもっと大事にして行かなければならないと思っています。

もう一つは、比較的忘れがちですが、コーディネーターの存在です。保存の現場と文化財を活用する間に入って調整するのがコーディネーターです。このコーディネーターは日本ではなかなか育ちませんでしたが、文化財を守って行く時重要な役割を果たします。このような様々な人達によって文化財の守り手が形成されています。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ四

後継者・材料・道具の問題

後継者につきましては、以前より多くの若伊方に事業所の門戸を叩いていただけるようになりました。特に二十数年前までは、ゼロであった女性の技術者が半数以上の応募が有り、装潢技術者の半数以上を占めるようになりました。平均年齢も30歳代前半という大変若い団体であるという事が、連盟の誇りです。後継者育成という点で、先に消化した定期研修会の他に、連盟の予算で個人研修を募るなど、全体としてのレベルアップを図っています。

また、海外にも目を向け、東洋文化財の保存修理を視野に入れて国際交流にも努めています。

最も深刻な問題は、材料と道具の確保です。文化財の修理には大量の材料、道具が不可欠です。

和紙や織物、金工、指物など日本人の生活様式の変化に伴って全体的な需要が減少するに連れ、伝統的な製品を作る工房の閉鎖が後を立ちません。例えば、軸物の裏打ちに欠かせない美須という絵和紙は接着剤が古糊から科学的な糊へと変化したことに寄って需要が激減し、現在、美須紙を制作しているのは日本でただ1工房のみです。それも60代のご夫婦が制作されており、現在のところ後継者はいないと伺っております。紙以外のものでは、染織品の中に伝統的な技術を守って私達が希望するような表装裂地を織ってくれる工房も、ほんの1,2工房と少なくなっています。

すべての工程出機械化が進んだため、手作業に必要な道具が書く分野から消えていっています。

装潢修理に使用する数種類の刷毛も数工房でしか制作していないのが現状です。このような工房をどのように支援していく事ができるのかが、大きな課題の一つです。具体的には文化庁に相談して選定保存技術の指定をお願いしたり、指定が得られた後には、この工房の製品を文化財の修理に必ず使用して各生産者を支えていくという努力を続けています。これをあらに続けて行かなければならないと考えています。

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参考文献 〜文化財の保存と修復より〜

※ 2012年現在では、あらゆる面で再び減少傾向に有り、厳しい対応に迫られることもあるようです。

 

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ三

平成17年4月1日にかねてからの念願柄ありました法人化、有限責任中間法人が成立しました。

これは、連盟ないだけでなく広く公的に装潢技術の理念を示すものです。

その一方で、社会的な責任を果たす意味も込めて、修理技術者の資格制度をスタートさせました。上位資格者である技術長、主任技師になるためには、外部委員会による試験をクリアしなくてはなりません。外部委員会は文化財修理にかかわる書く分野の専門家から後世され、技術者には筆記試験、実技、口頭試問などが課せられます。5年目を迎えた現在(2009)技師長が8名、主任技師が25名が資格者として登録されています。

このような制度や事業により、現場の体制も旧来の書く工房におけるいわゆる徒弟制度的な上下関係から、工房内の枠を超えたももに拡大しつつあります。連盟では九州国立博物館に九州支部、京都国立博物館内に関西支部の工房を設けて、加盟工房から派遣された技術者が共同事業に携わっています。

参考文献 文化財の保存と修復より

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ二

主な共同作業としては次のようなものがあります。

まず、昭和30年代に、修理にかかわる保存科学について記述されたプレンダリースの著書(下図)を翻訳し、勉強会を持ちました。この事業は、連盟を立ち上げた先輩たちが、日本の修理の中に自然科学の視点を持ちこむことを必要と感じたことがきっかけでした。このような流れのなか、昭和46年度より、絹絵欠失部分に補填するための材料として、人工的に劣化させたミヌを共同開発しました。それは現在、世界中の東洋の絹絵を修理するために紫陽にも対応出来る様になっています。昭和46年から26年掛けて行われた色定経4300巻の首里に始まり、上杉文書や三千院文書等の修理に共同で取り組んで来ました。現在も10ヵ年計画で、10,000紙に及ぶ国宝・東大寺文書の修理が進行中です。

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このような当連盟の活動に対して、平成7年に文化庁から選定保存技術団体として認定を受けました。以来、補助金を受けて伝承者の育成、技術技能の錬磨、記録作製及びほんの発行という、3本柱を中心に事業を進めてい来ております。連盟の登録具術者を始め装潢技術にかか割る人々を対象に、定期研修も毎年行なっており、今年(2008)もこの会場で11月に行いました。

参考文献  文化財の保存と修復より

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其の一

今週は、国宝修理装潢師連盟についてもう少し詳しくお伝えしようと思います。

以下、装潢修理をめぐる現状と課題より抜粋〜

装潢修理の仕事

装潢という言葉は、正倉院文書などなら時代の文献にすでに現れており、その頃から巻子や屏風を仕立てる仕事がはじめっています。「装潢」を辞書でひきますと、「表装と同義語」とあります。尾の表装技術を使って文化財の修理の対症となるものは、紙や絹、土や板などに顔料を膠(にかわ)で接着させた絵画と、墨蹟(ぼくせき)や転籍(てんせき)、古文書など紙に墨で書かれた書跡です。それら、絵や書が描かれた本紙の修理に加え、本紙を形作る軸物、屏風、襖、巻子、冊子などさまざまな形式に仕立てることも、私達の仕事です。

国宝修理装潢師連盟は、平成21年(2009)に50周年を迎えます。昭和34年に、当時、国の指定文化財を修理していた7工房が結集して設立されました。現在では10工房が加盟しており、約130名の登録技術者がおります。

連盟内でお互いに連絡をとり、共同作業や共同での技術開発を行なっています。

次回は共同作業についてお伝えします。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

閑話

最近、生活の中で、インターネットの占める割合が多くなり、趣味のみならず仕事にも多大な影響を感じるようになって来ました。

その一つに、ここ2,3年で人と会っている時間を大雑把に振り返ってみると、ネットで知り合った人たちとの交流のほうが、以前からの人たちより多くの時間をさくようになりました。

ネットの中であれば、一日1000人以上の人と交流が可能です。しかし、リアルにお会いすると一日で数人から精々、十数人が限界です。当然、今までと考え方も、服装も、年代も、すべてが全く違う方々とつながることができるのです。その辺が最初は楽しかったのですが、だんだん、人間関係に「ノイズ」を感じるようになりました。

よく言えば、新しい刺激なのですが、自分にとって価値の無い情報のほうが多くあります。情報収集していると、いつの間にか、情報を使いこなすことが目的なのに、情報を確認するのが目的なのか、わからなくなるようになりました。

ここで自分のとって必要な情報とそうでない情報をふるいに掛けるフィルターが必要になってきます。そこでグーグルリーダーであり、信頼出来る友人の情報であったりします。

そこで気付いたのが、逆説的なお話になるのですが、ネットをすることでリアルに人に会うということが、いかに大切なのかというを身にしみて理解できたのです。

なぜなら、実はその数人の中から、仕事につながったり、大切な友人に出会うことが出来たからです。人づての紹介ではまず、一生会うことのできなかったであろう方や、音信不通の何十年も連絡の途絶えた同級生など、ネットのお陰で会うことが出来ました。

ネットは素晴らしいツールですが、諸刃の剣でもあるなぁ。と感じる今日このごろです。