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絵画の保存修理における基本方針 真正性と伝統的価値

古びた趣、古色は人の思いが作り上げてきた伝統的な価値と言えます。伝統的価値とは、真性であるかどうかを判断することはできません。そもそも生い立ちが異なるものであって、真性が否かというようなものではないのです。ただ、それを価値あるモノと強く思う人々による称賛だと言えます。しかし、伝統はそれ故に、やがて人々がそう思わなくなれた消えるでしょう。ところが、それが消え去り、失われると気づかれた時、強い思いとともに回帰してくることも有るでしょう。

 

伝統というものはいつも不思議なもので、気付いた時には失われたものとして意識され、つぎにありつづけた確かなものとして意識されます。それは実は繰り返し起こっていることであるようです。長い時間を経て、大事に伝えられてきたものには、伝えてきた人々の思いがこもっています。そうした伝統的な価値観は、文化財の真正性とは別の生い立ちを持つ価値観で、絶えず変化してゆくであろうと思われます

しかし、それは無碍(むげ)に退けるわけには行かない。文化財のよっては、そうした伝統的価値のほうが、制作当初の表現の占める価値よりも大きく重要なものである場合もあるからです。すべての文化財は多かれ少なかれ、制作当初に生み出された要素と、後世に獲得していった要素から成り立っています。そのことをよく理解して、頭のなかで整理しておく事により、伝統的価値をどれだけ遺すかの判断はより正確になるでしょう。

あちらが立場こちらが立たないという関係に真正性と伝統とがある時、一つ一つの絵をよく見つめて、失うものと、後世に遺すべきものを、修理が終了するまでの時間の中で決断しなければならないのが文化財の修理です。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

ジグソーパズル。。。

今回は修復事例をご紹介いたします。

ある日、こんな仕事が舞い込んできました。

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お話を聞いていると、半ばあきらめながらも、お持ちになったようです。

 

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このような場合、記録ですから、新しい物に法名を移し替えれば済むことなんですが、出来れば昔から続いているものに残して行きたいと考えるのが自然な感情です。

品物を拝見した時、この程度なら出来ると直ぐに思ったのですが、

万が一があるので、「お約束はできませんが、満足いただけるよう精一杯やりますので、お願いします」と受け取りました。

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このような場合、作品の断片さえ残っていれば、後は地道にパズルのように置いていくだけで何とかなります。技術というより、根気です。

断片がないときは、地色に近ものをはめ込み、目立たないようにします。

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こんな感じになります。

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捨てる前に、一度ご相談ください。

 

 

 

「桐」

昨晩、夕方6時30分から「桐箪笥の謎?」というテーマの番組がありました。

今回は桐について。

私たちの日常生活で考えると、森林の中で運動や散策をしたり、瞑想に耽ったり(ふけったり)する森林欲は、生理的に重要な役割を果たしています。

いえのまわりに木を植えると、私たちの精神面や健康面にプラスの効果が生まれます。

また、合板のプリントにわざわざ木目をあしらうように、木目は日本人が特に好んでこだわるモノの一つと言えます。本物の木目を眺めて、安らぎを覚えた景観のある方は少なく無いだろうと思います。木目が人間に心理的な安らぎを与えることに関する研究によると、木目には「ゆらぎ」と表現される1/f効果があるそうです。1/fのゆらぎ、優れた絵画には1/fのゆらぎ、漫画にも、それとはまた違う変動幅のゆらぎが備わっているそうです。

また、お中元や贈り物として、高級果物の販売コーナーには立派な桐製の箱に入ったメロンが並んでいます。この場合の桐箱は、メロンを保存するためではなく、呼吸感を演出するためのものです。高価で貴重な美術品や骨董品が桐箱出保管されていることが、桐箱に収めるものは高価であるというイメージに繋がったのだろうと思います。桐箱のもう一つの効果です。

■ 何故、掛け軸は数百年前の作品を残すことが出来たか?  ■

まず、これを説明するためには掛け軸の構造を知っていただかなくてはなりません。

基本的には表側から本紙→肌裏紙→増し裏紙→総裏紙の順番でつくられています。

本紙 (紙の場合を紙本、絹地の場合は絹本と呼ぶ)

肌裏 (基本的に美濃紙と呼ばれ、薄くて張りのある丈夫な紙)

増し裏(美須紙と呼ばれ、楮に石灰を混ぜ込んだ柔らかくしなやかな紙)

総裏(宇田紙と呼ばれ吉野で取れる白土を混ぜ込み作られる割とシッカリとした紙

直接われわれの眼に触れるのは総裏に用いる宇田紙です。数百年も前の作品を見ると、はるかに額装より、軸装のほうが多く残されています。

なぜか?
最初に一言付け加えておきますと、物を劣化させる物質は全て酸性であるといわれております。保存に一番適している状態は中性~弱アルカリ性だといわれております。

それを頭に入れておいてください。

それでは解答です!
それは光や空気に触れないからだといわれております。

現在では、家の中で火を起こし煙がでるなんて事はあまり見受けられないようになりましたが、昔は現在の額のように硝子やアクリルなどで保護をするものがありませんでしたし、常に光にさらされていました。

1年を通しての天候による温度差、湿度差、光(紫外線)など、本紙が直接影響を受けていました。

掛け軸はというと、巻き込むことで光を遮断し、空気中を漂っている粒子(酸性物質)から護り、さらに、本紙の表面には巻き込むことで総裏紙に練りこまれた 白土(弱アルカリ)に護られる(中和される)というわけです。また、糊自体は酸性なのですが、美須紙、宇田紙に含まれる石灰、白土のアルカリ性で中和され ます。

このように書いてきますといいところばかりのようですが、実は欠点もあります。

巻き込む事で作品の画面をゆがめてしまうことなのです。本紙の上に乗っている顔料が剥落する恐れがあるのです。

また、取り扱いがなれないと収納するときに皴(しわ)や折れが出てしまうことがあるのです。画面が折れた状態で巻き込むという行為が何度も繰り返されると限界を超えたとき、断裂してしまいます。

現在の日本画は洋画のように顔料を盛る技法が盛んです。そのため、軸装より額装のほうが多く作られるようになりました。

表装するときにはこれらの事を十分踏まえてどんな装飾にするのかご判断ください。

100枚の和紙を手で触っただけで薄いものから厚いものへ順番に並べる方法

手漉き和紙は、文字通り人の手で漉かれるので手漉き和紙といいます。

最近は、道具の改良でかなり均一な紙が漉けるようになりましたが、それでもその人

の癖、体調、気候、材料などが機械で作られるパルプなど比べるとその時々で違った

紙が出来ます。

昔の人はそれと上手に付き合い、むしろ利用してきました。

例えば、紙の上下左右の厚みが違えば、そのときに必要な分だけ取り、左右たがえ

違いに置き、上下の厚みが違えば厚いものと薄いものが重なるように順番に使うなど

の工夫をして来ました。その工程と作業を支えているのが最初の作業として、

紙を厚いものから薄いものへと並び替えるという作業、これが出来たからです。

そういったひと手間を加えることで、誤差を埋めることが出来たのです。

では、「100枚の紙を手で触っただけで薄いものから厚いものへ十番に並び替える方法をご説明いたします。

まず、目の前の100枚の紙を3種類の「厚さ」に分けます。(人間の手の感覚だけ

でも十分出来ます)

その3種類とは、自分の手の感覚で厚いもの、薄いと感じるもの、そしてその中間の

もの以上の3種類です。一番最初の紙を基準とします。これを中間とします。

そして、2枚目、3枚目と手の感触で分けていきます。もし、最初に中間と決めた紙

が3種類の中で一番薄いグループならば、そのときの分類上は、中間のもの、

やや厚いもの、厚いものに分けることが出来ます。あるいは、最初の中間が一番

厚ければ、やや薄いもの、薄いものに分けられます。3つに分けるところが肝です。

すると・・・目のまえには3つの紙の山が出来上がります。この3つの山をさら

にそれぞれの山ごとに3種類の「厚さ」に分けていきます。

100枚の紙→厚い山 ⇒3つに分ける⇒さらに3つに分ける→さらに3つ

(33枚)  (11枚) (3枚か4枚の山) (1枚の山)

中間の山 →    →         →

(33枚) (11枚)  3枚か4枚の山) (1枚の山)

薄い山  →      →          →

(33枚) 11枚) (3枚か4枚の山) (1枚の山)

このように一度に100枚は無理でも、細かく分類することで綺麗に薄いものから

順番に並び替えることが出来るのです。これが先人達の知恵です。

■ 巻物の隠れた役割 ■

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現在、日本画の流行として絵の具を立体的に盛る技法が盛んなようです。
当然、その作品の仕上げ方法として、額装が選択されることが少なくありません。
なぜ、額装なのでしょうか?
それは絵の具を盛ることによって掛け軸のように巻き込むことで画面がゆがみ絵の具が
剥落することを避けるためです。その解決方法として、100年ほど前に太巻きといわれる
もので、桐製で直径2寸ほどの大きな真を作り、それに巻き込む方法がとられました。
そうすることで、画面のゆがみを最小限に押さえようとしたのです。しかし、作品自体が
年々大きくなり、額装にした方がより自然のながれになり、現在に至っております。

今回、ご紹介するのは掛け軸の隠れた保存方法なのです。
掛け軸の基本構造は、作品+肌裏紙+増裏紙+総裏紙で構成されたいます。
私たちの目に直接触れるのは最後に使われる「総裏紙」になります。この総裏に使われ
ている紙はしなやかで厚みのある紙です。紙を漉くときに吉野でとれる「白土}を
混ぜ込みます。この白土の役割は、掛け軸全体のバランスを保つことのほかにもう一つ
大切な役割があるます。それは、「劣化」から作品を守ることです。
作品は長い間に空気中にさらされ、紫外線などを含む光にもダメージを毎日少しずつ
受けています。掛け軸の場合巻き込むことで収納の面からも、場所をとらず、光にもさ
らされず、そして酸性物質からも守ります。白土はアルカリ性を示します。巻き込むこ
とで作品の面をアルカリ性の白土が入っている紙で覆われ酸性からまもっているのです。
現実として、現在額装より遙かに多くの軸装作品が残されています。
もっとも額装も日々進化をしており、紫外線をカットするアクリルなども開発されてい
ます。近年では鑑賞妨げになる光の反射をしないアクリルなども開発されています。

❏ 軸先 ❏

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今回は軸先についてお話しします。
軸先には、金軸、塗り軸、象牙、黒檀、紫檀、白壇、樹脂、プラスチックなどがあります。
それぞれ役割というか用途が決まっていて、その関係について紹介いたします。
作品を際だたせるための一つの目安とお考えください。
金軸    御名号・経文・仏画・
水晶    美人画
黒塗    御名号・経文・般若心経・仏画
朱塗    御名号・経文・般若心経・仏画
蒔絵    武者・美人・雛
一位、面金 神号
瀬戸軸   美人画・墨跡・色紙・短冊・和歌・俳画
象牙    人物・美人画・水墨山水・花鳥
角千段   美人画・武者
紫檀    七言・五言・二言・細字

あくまでも、作品の特徴を生かすためのものですので、絶対ということではありません。
このような使われ方をしたものが多く残されているということです

作品の選定作業とは・・・

 

 

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上が最終的に選ばれた作品です

 

 

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この作品は読みやすく漢字的な手法を使ったのですが、堅い感じがしてしまいかな文字らしさが伝わらなくなってしまった。

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この作品は、3ヶ月間県内を巡回する事を考慮し春らしいピンクではなく、黄色の入った紙を使ってみたが、額のマットとの相性が今ひとつマッチせず見送りとなる

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この作品は、淡いピンクのばかしの入った紙を使ったので柔らかさは出たが、印章が大きすぎるのではないかと思い候補から外れる

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この作品は、印章を小さくし、文字の使い方もかならしく繊細で春らしいイメージに仕上がったが・・・黄色がマットとそぐわない処が気になる。。。

 

悩みに悩んだ末・・・下記の作品に決まりました。
たった一つの作品を生み出すのには相当の苦労があるのです。ここに紹介できなかった何十枚の作品がこの一つの作品の裏側にあります。
今回は新潟女流展に出展されたMさんの作品をお借りして紹介いたしました

 

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【装潢手、経師師、表具師の違い】

地域のよる、呼び名の違いと思っていましたが調べてみるとなかなかおもしろいもので、私自身楽しく知識を深めることができました。どうぞ、お時間のあるときにご覧ください。

 

京表具の歴史は,長らく京都が日本の都であったことから,即ち,日本における表具の歴史といえます。

表具の歴史をさらに遡りますと,その発祥は中国。蔡倫(さいりん)による製紙法(105)の改良により,紙が普及する3~6世紀頃,「書画を挂(か)け拝する」という意味の『挂軸』という言葉が出現します。

中国における表具は,竪巻の挂軸として王家の書画を表装することに始まり,隋・唐時代には仏教の隆盛に伴い,仏典・経典の漢訳や書字が国家の事業として行われると,横巻の経巻が出現します。

いずれにせよ,書画の保護と装飾を目的とすることに相違なく,書画を裏打ちし,表装し,軸と八双竹をつけ,軽くて移動や保存に便利な軸装の技法です。

そんな表具の技法が。仏教の伝来とともに日本へ伝わったのは,六世紀の初頭。その証左として,例えば,大宝律令(701)には「図書寮を設け、図書、経籍をはじめ、校写・装溝(そうこう)・筆墨のことを掌(つかさど)らしむ」とあります。装とは料紙の裁断や継ぐことを意味し,潢とは料紙を染める(防虫のために黄檗な樹皮の汁で紙を染める方法で唐において始まった)ことを意味します。

聖武天皇(724―749)在位の頃には,朝廷に写経司(のちの写経所)が設けられ,経師(写経生)・校生(校正)・装潢手・題師・瑩生などの職が置かれました。

なかでも装潢手は,料紙を調えるだけでなく,界線を引き,軸・表紙・紐を装し経典に仕立てる役職で,表具師の前身といえます。経師と装潢手は経巻製作の中心的な役割を担い,他職にくらべて最高の給付を受けていましたが,平安時代に入ると,学問本位の南都仏教に代わり,加持祈祷や修行本位の天台・真言の密教が台頭します。そのために国家事業としての写経は衰退し,写経所は廃止されました。

そうして官職を失った写経所の職人は,民間へと技を発揮する道を求めていきます。

参考文献 京文化通信より

【各団体の紹介と役割の違い】

それぞれの団体の概要を抜き出してみたのですが、表現や目的の違いにも目を向けると興味深いものがあるようです。

【国宝修理装潢師連盟】http://www.kokuhoshuri.or.jp/01_about/index.html

国宝・重要文化財を中心とした文化財(美術工芸品)の保存修理を専門的に行っている修理技術者集団です。主に日本・アジア地域で製作された「絵画」「書跡・典籍」「古文書」「歴史資料」などを修理対象としております。

国の選定保存技術「装潢修理技術」の保存団体として技術の発展及び向上を図り、文化財修理及び関連する諸事業を通じた社会貢献を行っています。

【全国表具経師内装組合連合会】http://tokyo-hyougu.jp/zenpyoren.html

当協会は、表具・経師・内装インテリアという3つの大きな業種部門から成り立って居り、それぞれに卓越した技能を保持または伝承する会員で構成され、現代に輝かしい実績を維持しております。

しかしながら長い伝統を持ち、日本人の生活の中に生き続けてきた「表具」「経師」も現代社会の多様化する形態に応じて新しい方向性を期待されていることも事実です。

これまで培い養われてきた日本の伝統技術・技能を正しく保存・継承しつつも、そのうえに社会やユーザーのニーズに合わせ創意工夫を重ねて新しい技術の展開を図る事、それが技能集団である我々協会に課せられた課題であります。

会員の専門技術、知識の向上ならびに社会的経済的地位の向上を図ると共に、日本固有の伝統技術の保存と継承を積極的に行い、この分野の技能に対する社会的評価を高め、もって表具経師内装業界(表装・襖・内装・額・屏風・衝立などを手掛ける事業)の健全な発展と文化・公益に寄与することを目的としています。

【文化財保存修復学会】http://jsccp.or.jp/

文化財保存修復学会は、文化財の保存に関わる科学・技術の発展と普及を図ることを目的とした学会です。文化財保存にさまざまな立場から携わる専門家が集まり、研究、教育、一般向けの文化財に関わる知識の普及など活発な活動が行われています。

【文化財保存支援機構】(JCP)  Japan Conservation Project

私たち文化財保存支援機構は、「文化財」の保存活動を通して「人間にとって大切なもの」「失ってはならない大事なもの」を、未来に伝えていきたいと考えています。「文化財」とは、人間が地上に生を受けてから連綿と紡ぎ出し、営々と積み上げてきた歴史と文化の証しであり、生活の英知と美意識の結晶に他なりません。国が変わり、言葉が変わり、民族が異なっても、その価値が変わることはないでしょう。私たちは、これら人類共通の遺産を護り、育み、次世代に伝えていくために組織されたNPO法人です。

ちなみに私が参加している団体は、このJCPです。