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東京国立博物館におけるインターン制度 其の四

研修よカリキュラム

保存修復課が行う業務は多岐にわたり、それらを再度示すと、①作品及び環境の診断と記録②予防保存④教育及び普及⑤課の運営である。④番目はインターンの受け入れや、その他に特集陳列「東京博物館コレクションの保存と修理」の開催や本館⑰室平常陳列の【保存と修理】の実践など、教育と普及を含む項目である。

研修生の実習として具体的に提供できる業務は、①〜④の項目である。具体的には以下のような内容の項目であり、可能な限り追体験をおこなえるように配慮した。

1 作品及び環境の状態を定期的に調査し、その結果から状態の評価を行う。診断とは調査と評価  を行うことであり、それら一連の作業を調書(カルテ)に記録する。あらゆる作業の工程は写  真や記述としてカルテに残す。

2 診断結果に基づいて、温湿度の安定化のための環境改善、有害ガスの排除、統合的害虫生物管  理、輸送の安全確保対策、自身などの災害対策を立案し、実践する。

3 予防保存と修理保存の中間に位置付けられる対象修理をどのような状態に対して、いかなる方  法論で適用するかの判断の検討、本格修理を必要とする作品の状態調査、修理報告書の作成方  法など。

これらの内容を基本として、次のような時間配分とした。(下図)項目に対する時間配分は実際の業務への配分似あわせてある。平成21年度に実践した各項目の詳細は(表2)のようになる。

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「概要」は保存修理課の業務全般の紹介と臨書保存の考え方について説明する。「診断」は、他館への作品の貸与・返却の歳に行う点検作業の見学を通じて、関係者同士の対応の在り方、作品の取り扱い、点検のポイントなどを書跡、考古、工芸の分野について実践する。また、作品の状態調査に欠くことの出来ないX線透過写真の撮影方法也判読方法についても実習を行う。そして、それらの点検・調査結果を記録する保存カルテについて、その作成と記録法について解説を行う。「環境」では環境保全、予防保存、IPMについて講義、常設展示室や特別展示室の環境整備に関する実習、収蔵、展示、輸送など環境保全に対する評価方法に関する講義を行う。「修理」では展示作品を観察しながら作品の状態調査をカルテを使用して実習する。予防保存、対症修理、本格修理に関する講義と見学、そして修理報告書の作成と保管、刊行に関して説明を行う。「教育」では17室で公開している常設展示の「保存と修理」の見学とその解説に関する講義、毎年恒例の特集陳列「東京博物館コレクションの保存と修理」展の企画内容について、特に列品解説、ツアー、シンポジウムに関する講義を実施する。最後に「評価」として質疑応答などを行い、各研修清の評定を行う。

 

 

参考文献 文化財の保存と修復より

文化財の守り手を育てる

文化財保護法と文化財保存修復学

実際に文化財の保存と活用に関するカリキュラムの開発を行うのは大変なことであるという事を感じられた形が多いのではないかと思います。「文化財の守り手を育てる」という視点から、文化財保存修復、文化財科学について考えてみます。

最初に、文化財保護の体系(文化財保護法第2条、92条。147条)を下図に示します。文化庁のホームページに公開されています。文化財保護法は昭和24年(1949)の法隆寺金堂焼失を契機に、翌年に公布、施行されました。文化財の定義には、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群、文化財の保存技術、埋蔵文化財があります。

また、重要なもの、特に価値の高いものは、指定や登録を受け、有形文化財では重要文化財、国宝に、記念物では史跡と特別史跡、名勝と特別名勝、天然記念物と特別天然記念物、のような体系になります。このような文化財保護の体系については、残念ながら学校教育の現場ではあまり定着していないのが現状かと思います。この辺りから本学会から基本的な情報を正確に発信して行く必要があるのではないかと考えています。一方、世界遺産条約は、世界遺産を保護し次世代に伝えることを目的とし、しぜんと文化は相互に補い合う関係にあり、人類と自然画切り離されずにつながっているという考えがあります。

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参考文献 文化財の保存と修復

平面作品との保存と修復 東洋絵画  其ノ二

主な共同作業としては次のようなものがあります。

まず、昭和30年代に、修理にかかわる保存科学について記述されたプレンダリースの著書(下図)を翻訳し、勉強会を持ちました。この事業は、連盟を立ち上げた先輩たちが、日本の修理の中に自然科学の視点を持ちこむことを必要と感じたことがきっかけでした。このような流れのなか、昭和46年度より、絹絵欠失部分に補填するための材料として、人工的に劣化させたミヌを共同開発しました。それは現在、世界中の東洋の絹絵を修理するために紫陽にも対応出来る様になっています。昭和46年から26年掛けて行われた色定経4300巻の首里に始まり、上杉文書や三千院文書等の修理に共同で取り組んで来ました。現在も10ヵ年計画で、10,000紙に及ぶ国宝・東大寺文書の修理が進行中です。

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このような当連盟の活動に対して、平成7年に文化庁から選定保存技術団体として認定を受けました。以来、補助金を受けて伝承者の育成、技術技能の錬磨、記録作製及びほんの発行という、3本柱を中心に事業を進めてい来ております。連盟の登録具術者を始め装潢技術にかか割る人々を対象に、定期研修も毎年行なっており、今年(2008)もこの会場で11月に行いました。

参考文献  文化財の保存と修復より

時代色と染み抜き

現在進行中の掛け軸の作業工程をご紹介いたします。

今回は、過酸化水素という薬品を使用しました。

お客様との打ち合わせで、一番下方にある直径2㌢くらいの染みをどうするか?

ここ以外には大きく気に掛かるような染みは特になく、この強い染みが落ちなければ

最悪、この部分を切り落とすという判断もありうる。という事になりました。

お客様にとってかなりこの染みが気になってしまうのだと感じました。

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前         後

画像の撮り方が未熟でわかりにくいですが、強い染みがほとんどわからなくなりました。

ここで重要なことは、染みが抜ける最小限の薬品を使うということに注意して

行いました。なぜなら、染みは抜きたいが、長年の間に自然についた「時代色」

は残すべきだと考えたからです。薬品が強すぎれば、作品(紙本)にもダメージがあります。

ひとつ間違えれば、作品の寿命を縮めかねなからです。

もう1回洗いをしたいところですが、一歩手前で終了と致します。

 

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組織の中で保存修復管理者を確立させるには・・・・

昨日に引き続き、神庭氏のパネルディスカッションの抜粋より

私は東博で働かせていただくようになって満9年を迎えようとしています。私が勤める前、一人だけ保存修復管理官がいました。それ以外はいませんでした。その方は5年あまり勤務され、病気で亡くなられ、その後を私が引き継いだわけです。この保存修復管理官という役職は、定員削減の時代の中にあって純増で出来たポストです。この時代に珍しいことです。そこから私の苦悩が始まるわけです。私もその方向を目指してその組織体をつくていきたい。でも、私一人では手も足も出ません。ダルマ状態で仕事しなければなりません。最初は、1台きりのデータロガーを持って保存科学のちからを借りて東博に挑戦する感じでした。なんとか人を増やして、組織を作って、巨大な文化財と建物をどう考えたらよいか。やるからには人が必要です。しかし、純増はもうありません。どうするかというと、人を食っていくんです。つまり、美術史の人がやめたら、その補充に保存関係の人を入れてもらうということです。それによって保存は一人増えますが、美術史が一人減ります。そのような厳しい状況のかなで人を増やさざるを得ません。そうやって何人かの保存専門の人間が確保できてきたのです。私にとっては、なんて言うんでしょうね、申し訳ないのですが、それをやらなければ保存は確立出来ません。だから、「保存は役に立たなきゃならないよ」といつも言っています。学芸員が困っていたら、直ぐに手を差し伸べて、一緒に考えて役に立てる事を信条としてやっています。

京博は人が少ない。保存の人間が一人食っちゃうと展示も何も大変なことになります。じゃあ担当学芸員という方地で良いか。もしも私が保存の専門家ではなく、例えば中国美術史の専門としてここにいて、これが保存担当学芸員として働いていた場合、やっぱり美術史的研究や展示と言った事柄と利益を共有します。だからどうしても、保存という方向性に対する強い欲求が生じにくくなり、保存分野の確立という方向性が明確にはなりません。保存と違う方向に引きずられていきます。ですから、一緒に歩んでいける保存の専門家を、私は一人くらい食って採用していただきたい。そこから始まっていくのではないかと思います。

保存担当学芸員が広がりを見せる一つの底辺を作ることが必要です。その前に、職業があって始めて裾野が広がります。まだ日本にありません。それを何としても実現していく必要があります。保存修復学会会長を先頭に頑張っていただきたいと思う次第です。

 

参考文献 平成20年度版 文化財の保存と修復より

 

展示するには修理が必要

「探検バクモン」という番組で、7月20日に再放送が決まりました。

 

探検記録アンコール 秘宝ザクザク!東京国立博物館(放送:2013年7月3日/再放送予定:2013年7月20日)

http://www.nhk.or.jp/bakumon/prevtime/20130703.html

今回はこの時に爆笑問題のお二人を案内をされている神庭修復課長のパネルディスカッションの一コマをご紹介いたします。私が、3.11の岩手レスキューに参加した時に幾度かお会いさせて頂きました。当時は、そんなに偉い人とは知らなかったので、今になってから変な汗が出てきます。

東博の所蔵品の点数は、公式的には11満点と言われております。ただし、1件に2点、3点、あるいは100点というように、件数を細かく個別に見ていくと数百万点が収蔵されています。それを言い出すときりがないので件数でお話しますが、東博では常時、皆様の目に触れやすい作品は5000件です。つまり、年間5000件ほどが常設展示されています。その他、数線点を館外へ貸出ていますので、大雑把に言って約1万件が頻度高く利用されている収蔵品です。この1万件に痛みが多いわけです。例えば、巻物ならば折れが発生して修理しなければならない時期が来ます。それを見て行くと、正確な数字はお答え出来ませんが、1万件の中に相当数が本格的な修理を必要としています。しかし、それらを一挙に修理することは不可能です。全部修理するには数百年かかると思います。

そこで優先順位をたてるようにしています。具体的菜痛み具合をきちんと把握するため、先ほどご紹介したようなカルテを作製しながら進めています。それでも年間、数百点の調査しか出来ません。1満点全体が把握出来れば、難点出何年掛かります。と直ぐいえますが、今は、数千点が修理を待っているとしか言えません。実際は、それ以上かもしれません。

これまで1年間に100件の本格修理を積み重ねてきています。経費をこのまま維持出来れば、1万件ならば100年、2万件であれば200年掛かります。そのようなオーダーで考えていかければならない問題です。

人気があって、良く展示されたり、他館に貸し出されるものはある意味規則正しく痛みます。1年に1回の展示を100回行うと、100年たてば紙ものなら折れが目に見えるようになります。そのように痛みが進行して修理していくという感じです。すべて修理するのに100年掛かるとすると、1周したら最初のものが傷んで来ているという無限のサイクルのかなで手当していくことになります。博物館だけでなく、文化財を管理するあらゆる立場の人たちは、そのような状況にいると考えて頂いて良いわけです。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

東京博物館の取り組み 対症修理例 その3

下図は、「博物館魚譜」と呼ばれる、様々な魚の絵が折れ本装のアルバムに、スクラップ上に張り込まれた資料です。全部で16冊あります。折れ本の両面に、絵が折りこまれていて、開閉の際に、折れやシワが生じやすく、取扱が大変困難な資料です。

この資料は、草創期に編集された、まさに博物館最初のコレクションの一つとして大変記帳なものです。資料性を尊重するためには、このままの状態で出来るだけ長く保存、活用すべきであると考えます。したがって、最小限の介入でぶら下がる紙を固定するために、和紙のポケットのよな保護カバーをつけることにしました。いつでも、元の状態に戻す事ができるので、今後、より良い方法が開発されれば、文化財に負担を与えることなく、再度処理を行う事が可能です。もちろん、それまでの間の取扱も安全になるでしょう。

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参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

東京博物館の取り組み 対症修理と本格修理

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上図は、当館の修理保存件数の推移です。

修理保存を実際に担当する専門家が配置されてから、本格修理に比べて対症修理の件数が飛躍的に伸びています。解体を含む大掛かりな修理は、文化財によっては、どうしても周期的に必要になりますが、現実問題としては、経費や時間や文化財自体への負担を考えると、できる限り先送りにしたい処置でもあります。しかしながら、劣化や痛みの著しい文化財に対して、ただただ見守っているだけでは失われるものが多く、活用のできないというジレンマがあります。そこで、やはり対症修理の必要性が年々高まって来ているというわけです。文化財へのアクセスを安全に行うための処置は、時に緊急を要することが多いのも事実です。ぼんやりとした遠い将来のことではなく、目の前の問題を確実に解決していくこと、これが文化財へのアクセスと直結しているのではないでしょうか。

参考文献 文化財の保存と修復より

東京国立博物館の取り組み「臨床保存」

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臨床保存活動は、大きく分けて「環境保存」「修理保存」があります。主軸となる活動は、もちろん「環境保存」です。文化財を取り巻く環境を整え、文化財が傷んでいく速度を遅らせ、現状を維持する事、いわゆ予防保存です。そして、どうしても必要とする場合のみ、「修理保存」を施すわけです。これを確実に実行していく活動を「臨床保存」呼んでいます。

臨床保存は永遠のテーマを実際に両立させていこうという実践的な活動です。「環境保存」の活動にも数多くの枝分かれがあるのですが、今回は「修理保存」を中心にご説明いたします。

大掛かりな修理、これを当館では「本格修理」と呼んでいます。もう一つは比較的規模の小さい、いわゆる応急処置で、「対症修理」と呼んでいます。更に、対症修理には文字通り、損傷部分のみ働きかけて処置を行うものと、将来的な損傷を予測し、それを予防するための処置があります。

また、展示のための調整もこの対象修理に入ります。当館で行なっている修理保存の多くが、特に対症修理に関しては、予防的要素を含む作業であり、予防保存を支えている活動のひとつとして捉えられています。したがって、実際にはこの作業は環境保存から枝分かれしてくるものと考えることができるでしょう。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

収蔵庫内の環境管理

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上の図は、東京博物館の収蔵庫の相対湿度の状態を示しています。東京博物館は九州国立博物館のような新しい施設よりはるかに古い建物なので、そうした古い建物をどう改善していくかが与えられた課題です。上の図では40%〜80%の相対湿度を示していますが、平成11年の相対湿度は70%ほどのところにいます。このようなグラフを用いていると環境の診断・解析ができます。

では、この状態をそうしたらよいのでしょうか。数億円の予算を要求して収蔵庫を改修し、一気に良好な状態に飛び越すこともできますが、それほどの資金はありません。そこで、数十万円の除湿機と加湿器を導入して、館員が交代で協力しながら、朝な夕なに水を足したり、除去したりという努力を積み重ねていくと、年をおうごとに湿度が低下していきます。平成18年の状態を見ていただければ解るように、最も出現頻度の高い湿度は50%程度の値まで下がりました。これは一度にたくさんのお金をかけなくてもできたことです。しかし、人の力がなくてはできませんでした。こうなるとこは理論的にはわかりますが、実現するには学芸員の協力が必要です。私達はこのようなことができるという方向性を示すことは出来ましたが、私達だけの力では実現することはできません。博物館の学芸員やそのほかの職員と橋梁下から実現できたのです。

参考文献 文化財の保存と修復より