表現とは何かと申しますと、これは抽象的で難しい言葉ですが、平たく言いかえますと「絵とともにあるけど、絵そのものではない」ものです。
それは美であると言っても良いでしょう。絵の美しさは、絵とともにあるといったものですが、それは絵画の絵絹の繊維や絵の具の薄い層といったものではない。しかし、確実に見えているものです。
この「風雨山水図」でいえば、ここに感じられる画面右上方に開けていく大きな空間の感覚は、物質としての絵絹や絵の具ではなく、しかし絵とともにあるものです。
また画面右上隅から斜めに薄い墨を刷いて表した、この空間を吹き降ろしてくる風もまた、絵のモノの部分ではなく、絵とともにある、つまり表現です。
文化財としての絵画の生命はその表現にあります。修理にあたっては、表現に変化を生じないよう、また新たな表現を加えないようにすることが必要になります。すなわち、現状を維持するということです。
先ほどの「風雨山水図」に戻ります。先ほどは修理後の姿をお見せしていましたが、修理前が同様であったかをお見せしましょう。(右側)これは斜光で折れを少し強調して撮っていますが、細かい俺のために景観の後世も風の表現のわかりませんでした。この作品は、実は修理によって表現が「本来の姿」を回復した例と言えます。修理後には、折れの無くなった画面に景観がハッキリと現れました。
参考文献 文化財の保存と修復より