掛け軸は通常、本紙の裏から順に、肌裏紙、増裏紙、中裏紙、総裏紙と呼ばれる4枚の裏打ち紙が、小麦粉澱粉糊によって接着されています。(上図)
掛け軸全体を支えている総裏紙と、中裏紙が剥がされると、表具裂が本紙の周囲から外れます。また、増裏紙が剥がされると、本紙と直に貼り合わされたもっとも重要な肌裏紙が現れます。文化財修理の分野では、この肌裏紙を除去する工程は、高い水準の技術が要求されることの一つですが、本紙の折れや亀裂、欠失と言った損傷を根本的に改善するためには欠くことのできない作業です。
さて、掛け軸装はすでに述べた通り、収納時には本紙の表面を内側に巻き込んで箱に収納します。これによって、額縁などに比べれば非常にコンパクトに収納することが可能となります。
ある程度の大きさのモノであれば運搬も簡単で、優れた装訂形態であると言えます。その一方で、本紙の表面を内側に巻き込む作業を何度も繰り返す事によって、表面が擦れて絵の具が剥落(はくらく)したり、本紙に折れが発生するという弱点を有しています。本紙の表面に折れ傷が発生すれば、その箇所は健全で平坦な部分より出っ張るようなかたちで高くなるため、掛け軸の巻き解きの際に余計に表面が擦れる事になって、折れ傷は最終的には亀裂へと進行します。
このような損傷が発生した場合に修理が必要とされます。修理を施さいなまま亀裂を放置しておけば、その小口から損傷が進行して本紙自体の欠失へと悪化し、表現が施されれている本紙そのものが失われることになります。そのことは、絶対に避けなければなりません。
修理作業の内容の詳細は、ここでは割愛させて頂きますが、損傷してしまった本紙を修理するためには、掛け軸装などの装訂を解体して、すべての裏打ち紙を剥がし、本紙の裏側から補填や補強を施すことが不可欠です。つまり、掛け軸の修理技術には、接着されている物を剥がす、弱っているものを強化する、適切に接着するという要素が多く含まれています。
参考文献 文化財の保存と修復より