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「文化財としての絵画の保存修理における基本方針」とは

例えば、穴の空いた絵画があるとします。

これを文化財としての絵画を捉えると、その修理にあたって、穴が空いている設計図の内部が失われていても、創造出来得た線や色を加えたり、あるいは汚れて見苦しい部分を取り去ったりせず、できるだけオリジナルを変えてしまわないように注意することが大切だと言えます。設計図を修理によって変更してしまってはならないからです。

文化財の修理とは、日常生活における類の、新品同様に綺麗にする修理とは異なります。

つまり、文化財の修理は、設計図としての価値を持つオリジナル部分の現状の維持を基本方針としています。

この文化財修理における現状維持の方針ですが、これは修理前の姿を修理によって変えないようにという事ではありません。修理前には、過去の修理で施された様々な処置が、オリジナルの本来の姿を覆い隠していることが多く、あります。現状維持とは、文化財のオリジナル部分の本来の姿を見出し、その本来の姿を変えないという事を意味します。

本来あるべき姿を変えないと言うことは、言い換えれば、真正性を守るということを目的としています。

手を加えてしまっていないこと、自然であること、わざとらしく装っていなこと、贋作でなく手が入ってないことなどと言った意味の言葉です。

来週はもう少し詳しくご紹介したいと思います。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

 

❏ 木材あるいは木箱の調湿作用 ❏

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木材自体が有す調湿作用のメカニズムについての説明は罰の機会に譲りますが、桐箱内の湿度変化の減少について少し詳しく見て見ましょう。

一般的に、けんどん箱などのいわゆる桐製保存箱の内側の湿度変化は、外側に比較して小さくなっています。

この様子を説明するために、物理学で使う調和振動の方程式を当てはめると、時間とともに内部の湿度変化がどれくらいになるかを予測することができ、それと同時に桐箱の性能を評価することができます。箱の仕上がりの良し悪しはありますが、高度な技術と良質な材料とによって制作された出来の良い箱であれば、一日の家で外界の湿度がどんなに変化しても、箱の内部は10分の1以下の変化に抑えられる事がわかりました。外界の湿度が毎日、鋸の刃のように微妙に般化しても、箱の内部の湿度はほとんど変化しませんでした。しかし、大きな季節的な変動に従って、箱ないは感想かつ安定した環境と考えられて板と言いましたが、実際はやや湿度が高目の環境であることがわかりました。湿度は60〜70%くらいの間を緩やかに推移する環境です。

1000年近くわたって、木材だけでこの環境を守り続けてきたといえるでしょう。こうした木材がもつ永い寿命と高い調湿作用は、これからも日本人のかんで綿々と受け継がれて行かなければならない大切な智恵であると思います。木材の超室作用は過去の問題ではなく、今尚わたしたちの生活のかなで、しっかりと生きていることを紹介させて頂きました。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

【文化財における修理と修復の違い】

これにつきましては様々な考え方、見方があると思いますが、美術品に対しての考え方が時代により移り変わってきたことも要因にある考えられます。
もちろん時代にもよりますが、一例を挙げますと、「美人画」などは現代において、エックス線を照射することで、使われている絵の具の成分や絵の具の層
までもわかるようになりました。ある時代の物は、女性の裸体から描き始め、肌着を着せ、幾重にも丁寧に一枚一枚描いていったそうです。
つまり【命】を吹き込んでいくという考え方が根底にあるのだと思われます。この場合、絵画が損傷したときにわからないようにすべてを描ききる作業がされたそうです。
元通りにもどす技術【修復】。最近では、作者以外者が手をいれるということは、オリジナリティーが損なわれるということから絵の鑑賞、保存に妨げにならない
処置、命ではなく、美術品としての対応をしているようです。そこが【修理】ということになるのではないかとおもいます。
もっと詳しくお調べになりたい方は、下記をご参照ください。

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※画像は文章と直接の関係はありません。

「参考文献」

【東京文化財研究所】
日本における近世以前の修理・修復の歴史について
http://bit.ly/10Sjynh

伝統的修復技術を取り巻く環境 其の5

【修理費などの経済状況】

国指定の文化財のうち、国の補助金で修理している修理総額は年間約10億円です。

平城京に建設された朱雀門の総工費は40億円とのことです。日本の美術工芸品を保護するために国が予算設置して文化財を修理で切る総額は10億円です。3府県の国宝・重要文化財の所有率は約35%です。それなのに、現在では近畿3府県で修理費の約70%を使っていることになります。近畿3府県を除く他の府県に文化財画約65%ありますが、それ他の文化財に対して修理が十分に行われていないことになります。

これに対して近畿3府県の修理補助金額を見てみましょう。例えば、1999年の近畿3府県の修理額が約7億2400万円であるのに対して、近畿3府県の補助金額が約3300万円です。実に修理費の5%内外歯科負担できていません。国の予算が増加していっても、それに十分に随伴できていないのが地方財政の現状なのです。また、近畿3府県の文化財所有者のかなでも修理費を出資できる者と、できない者がいます。国が修理費の約65%、近畿3府県が約5%負担すると、所有者の経費負担している計算になります。これですべての文化財修理画できるわけではありませんが、国宝・重要文化財など文化財としての重要性が高く技術的な難度を求められる修理が年間10億円でなされているのです。

25年度の文化庁の予算の概要です。こちらです

 

下記は1999年〜2001年までの国指定美術工芸品修理費

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伝統的修復技術を取り巻く環境 其の4

【修復時の温湿度や生物被害などの保存環境】

最近では修理の現場においても、保存科学的な知識が必要になてきております。

保存科学の目で、修理における文化財環境を考えていかねければならない状況です。修理される文化財は、例えば表具であれば本紙一枚に解体されて、表具し直されて行きます。其の作業の過程にいける文化財は、言うならば裸でいる状態、無防備な状態です。人間の治療に入っているのと同じような状況下で、文化財は修理されているのです。文化財修復現場の環境は、博物館に保存されている時以上にある意味ではデリケートでなければいけません。これからは修復時の保存環境にも科学的な検討が加えられていくことでしょう。街の表具屋などでは店先で未防備に修理を行なっているのも見かけますが、今日では、京都国立博物館内の文化財保存修理所などの現場では、博物館などとどうようなに徹底した防犯・防災を行うことが当然の事になっています。

博物館などではあたりまえになっている温湿度や紫外線に関する対応の当然重要視されるようになってきています。伝統的保存修復の現場も保存科学と切っても切り離せない時代になってきたのです。

これからの文化財の保存科学は博物館などではもちろんのこと、寺社などの観光地や修復現場においても、より一層検討されることが重要になでしょう。

しかし、理想と現実には隔たりが存在し、次の「修理費などの経済状況」へと繋がっていきます。

参考文献 文化財の保存と修復より

 

 

 

伝統的修復技術を取り巻く環境 其の2

【伝統的修復技術保持者の現状】

まず、修復や表装を行う場合、其の材料の供給はどうなっているのかを紹介します。

一般には耳慣れない言葉ですが、「文化財保護法」の中に選定保存技術という制度があります。選定保存技術とは、文化財の保護のために不可欠な伝統的技術または技能で保存の処置を講ずる必要がるものを指します。1975年に「文化財保護法」が改正された年にできた新しい制度です。

人間を文化財に指定あるいは認定する場合、無形文化財(いわゆる人間国宝)があります。

それはその人が保持している技術そのものが歴史的、芸術的な価値の高い方のことです。

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それに対して、選定保存技術保持者とは、歴史上、芸術上の価値の如何にかかわらず、文化財の保存に不可欠な技術技能を正しく会得、精通している人たちのことを指します。

現在、選定保存技術保持者は42件、保持者数は46人で、同じ技術で複数の方が認定されている場合もあります。保存団体として、16件、16団体が指定されています。この中には伝統的な建造物の修理に関わる技術お多くあります。この中には表具用の手漉き和紙の製作者、表具用の古代裂の製作者や、美術工芸品を収める桐箱の製作者などが選定されています。

ここで問題になるのは、これらの伝統的修復技術をなぜ、認定するのかということです。

処置を講じなければ失われていくから認定されるわけです。

逆に言えば、伝統的修復技術というものが非常に危機的な状況にあるとも言えます。美術工芸品の修復を支えるのに不可欠な技術を持った保存技術者はそうたくさんいるわけではありません。

参考文献 文化財の保存と修復  文化財保存修復学会/編

 

 

伝統的修復技術を取り巻く環境 其の1

【伝統的修復技術を取り巻く環境】

絵画・彫刻・書跡など日本古来の文化財の修復には、伝統的な技術と同時に、伝統的な修復の材料となる紙や絹や裂や糊、材木や漆・膠(にかわ)など画不可欠です。

同時にいたんだ表面の修復や劣化した部分の材質今日かなどに伝統技術だけで対応出来ない場合もあり、新しい技術・材料の開発画必要となって来ます。

其のために「修復」おいう概念の、だんだんに「伝統的なもの」カラ、21世紀の新しい概念・理念へと変化が求められるものとおもわれます 。

今日、文化財保存や修復技術を専門とする学科を設置した大学が増えており、この会場にも多くの若い学生の方がおられます。中には文化財修復技術が今後ますます発展して行く可能性はあるとしても、伝統的な修復を地理膜環境は、ある意味で危機的な助教に置かれており、必ずしも楽観できるのばかりではありません。

これは平成14年の論文で、現在(2013年)も環境としては改善の兆しは感じられないというのが現状です。

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参考文献 文化財の保存と修復

 

装潢技術の変遷 其の4

修復材料としての紙の復元について少し触れておきたいと思います。

まず、繊維の種類を観察します。顕微鏡によって、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)中国の紙の繊維などの区別ができるようになります。更に、繊維の長さを見ていくと、長芋の、短いものもあり、加工してあるものと未加工のものがあることが分かって来ました。

更に視点を変えて、繊維の長さや切り口有無、状態などを調べる事によって、古文書のように記録を残すための紙、絵を書くための紙、またお経を書く紙など、すべて加工方法の違いによって紙の種類が、時代に於いて大きく区別されているように見えます。

漉いただけのものが生の紙で、これは文字を書くだけの記録用紙として使われます。

生の紙を、打つ、染める、化粧する、これらを紙加工といい、打つ事によって紙の密度が高まります。密度は厚さと重さと面積から算出しますが、紙が漉かれた状態から密度を上げるには、打つなどの加工をしていると思われます。表面の色艶(いろつや)、滑らかさの違うものも同様です。

実際の復元作業を通じて、様々なことがわかってくるのです。

このようにして、修復時に様々な料紙の裏面などから極微量の繊維を採取しデータを取るように指定ます。この十数年で1000例近いデータを集めることができました。(平成12年)

これが5000例を超えるとデータによって料紙の用途における加工や時代などの分類がはっきりとしてくるものと期待しています。

参考文献 伝統に活かすハイテク技術より 文化財保存修復学会/編

 

 

 

 

装潢技術の変遷 その3

近年では、脆弱な本紙を支える肌裏紙(1枚目の裏打ち紙)も改良が加えられています。

劣化絹が最新の科学技術で加工されているのに対し、紙の場合には従来の手漉き和紙と同素材、同組織で伝統的な技法で作られています。特徴的にも伝統的な和紙と変わるところはありません。ただし、普通、和紙の寸法は60㌢×90㌢ですが、改良したものは60㌢×250㌢と長版となっており、長尺の画絹に描かれた巻物などの修理に欠かすことのできないものとなっています。

このように前者は科学技術で加工し、後者は伝統技術を改良して現代に活かすなど、装潢技術も進歩を遂げているのです。

ここに至るまでの模索は、素材自体を知る糸口友成、また新技術の導入は修理方法をも変化させて始めています。修理前にカラー、モノクロ、赤外線、X線などの写真撮影で傷み具合が詳細に記録され、それを基に修理方針が立てられます。また、修理中にも記録が取られ、次回の修理時に今回の修理内容を把握することができるようになっています。しかし、実際に工房で行われていることは伝統技術そのものです。糊の使い方素材の選び方、仕上げ方などは、伝統的に受け継いだ技術が中心となっています。

更に、表装形式一つをとっても、これ以上、改良の余地がないほど完成度が高いともいわれています。言い換えると、新技術や新機器は、より高度な完成を目指すための補完的なものです。

接着剤にしても、これまで色々と工夫や改良がなされてきた歴史があり、今後も続くと思われます。それによって、今導入されつつある新しい技術や方法、考え方も100年後には伝統技術の一部になっているかもしれません。

装潢技術の変遷 其の2

装潢技術は本来、伝統技術によって支えられています。

しかし、修理の定義や中身が少しづつ変化してきた結果、新しい材料や技術が導入され、それ自体も伝統的な技術になりつつあります。例えば、絹に描かれた絵画の欠損部分を補填する場合、かつては無用となった古い絹絵の中からオリジナルの絹に近いものを見つけ出し、切り取って補填材として来ました。しかし、よく似た古い絹地を安定的かつ大量に確保することは困難であるため、大画面を修理するには不都合が生じることが少なくありませんでした。

そこで、新しい絹を作り、人口老化をさせて使用する方法が昭和30年代後半から研究され始めました。その後、約10年ほどで現在の劣化絹が完成したのです。

この技術は東京国立文化財研究所の指導と高崎原子力研究所の協力で共同開発されたものです。

電子線のよる劣化絹は、まずオリジナルと同じ組織の絹を織り、電子線を照射して人工的に繊維を劣化(エージング)させたものです。現在ではすべての修理に使用されており、この考え方や技法も確率されています。以前は、欠損箇所が何とか塞がればよしとしていましたが、劣化絹の登場で、欠損箇所を補填するとオリジナルに同化して一体化し、あたかも、もとの1枚の本紙ようになります。このようにして、現在では補填材としての絹を充分に入手できるよになっています。

※ただし、まだまだ市販はされていないため一般には普及はしていないというところが現状です

 

電子線劣化絹の開発

絵絹への電子線照射作業

また、特殊な例として、文化庁・東京国立文化財研究所(現 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究 所)・国宝修理装潢師連盟の三者と、日本原子力研究所高崎研究所(現 独立行政法人日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所)の共同による「電子線劣化 絹」の開発(昭和47年〜)が挙げられます。

この方法はその後も改良が重ねられ,劣化に供する絹そのものの様々な織り方の工夫になどにより,現在では130種類に及ぶ織見本が完成し,さまざまな絹本文化財の補修に適応できるまでになっています。

参考文献 文化財の保存と修復    国宝装潢師連盟HPより