まず、これを説明するためには掛け軸の構造を知っていただかなくてはなりません。
基本的には表側から本紙→肌裏紙→増し裏紙→総裏紙の順番でつくられています。
本紙 (紙の場合を紙本、絹地の場合は絹本と呼ぶ)
肌裏 (基本的に美濃紙と呼ばれ、薄くて張りのある丈夫な紙)
増し裏(美須紙と呼ばれ、楮に石灰を混ぜ込んだ柔らかくしなやかな紙)
総裏(宇田紙と呼ばれ吉野で取れる白土を混ぜ込み作られる割とシッカリとした紙
直接われわれの眼に触れるのは総裏に用いる宇田紙です。数百年も前の作品を見ると、はるかに額装より、軸装のほうが多く残されています。
なぜか?
最初に一言付け加えておきますと、物を劣化させる物質は全て酸性であるといわれております。保存に一番適している状態は中性~弱アルカリ性だといわれております。
それを頭に入れておいてください。
それでは解答です!
それは光や空気に触れないからだといわれております。
現在では、家の中で火を起こし煙がでるなんて事はあまり見受けられないようになりましたが、昔は現在の額のように硝子やアクリルなどで保護をするものがありませんでしたし、常に光にさらされていました。
1年を通しての天候による温度差、湿度差、光(紫外線)など、本紙が直接影響を受けていました。
掛け軸はというと、巻き込むことで光を遮断し、空気中を漂っている粒子(酸性物質)から護り、さらに、本紙の表面には巻き込むことで総裏紙に練りこまれた 白土(弱アルカリ)に護られる(中和される)というわけです。また、糊自体は酸性なのですが、美須紙、宇田紙に含まれる石灰、白土のアルカリ性で中和され ます。
このように書いてきますといいところばかりのようですが、実は欠点もあります。
巻き込む事で作品の画面をゆがめてしまうことなのです。本紙の上に乗っている顔料が剥落する恐れがあるのです。
また、取り扱いがなれないと収納するときに皴(しわ)や折れが出てしまうことがあるのです。画面が折れた状態で巻き込むという行為が何度も繰り返されると限界を超えたとき、断裂してしまいます。
現在の日本画は洋画のように顔料を盛る技法が盛んです。そのため、軸装より額装のほうが多く作られるようになりました。
表装するときにはこれらの事を十分踏まえてどんな装飾にするのかご判断ください。